2026.08.12

Hooksを1日3本、$3.4で

パイプラインが固まってからの一日は、こう進みます。新曲2本と既存曲1本のHooks、 GPU実費は約$3.4。うまくいった話だけでなく、4回作り直したカットも、 丸一日を溶かした勘違いも、そのまま残しておきます。

パイプラインそのものの解説は MAKING OF — AIだけでMVを量産する にあります。

この日の数字

完成したHooks3本(未定稿・折れない旗・走り出したいのに)+ 既存2本の修正再納品
GPU実費約 $3.4
キービジュアル生成48枚(追加費用ゼロ)
最短の1本未定稿 — 25分・$0.37・リテイクゼロ

01未定稿 — 文字を「置かない」で歌詞を見せる

「完成しなくていい」を歌う曲。これまでのアニメ調とはまったく違う、 ポップアート・コラージュの世界観で作りました。

核になったのは、全カットで文字の役割を変えるという発想です。 歌詞を画面に載せるのではなく、画面の中にあるものが文字になる

  • こぼしたピンクの塗料の中に、文字が抜きで現れる
  • 横断歩道の白線が、そのまま文字を形づくる
  • 周りを黒鉛が埋め、文字の部分だけが無垢の紙のまま残る
  • 左は鉛筆の下書き、右は塗り上がった大書
  • 駅の反転フラップが、回転の途中で止まっている
  • 最後の一画だけが、まだ引かれていない

アウトロで冒頭の「予定はまだ 鉛筆書き」のカットへ戻り、 「余白はまだ こんなにある」で終わる円環構造。 未完成のまま終わらせるのが、この曲の正解でした。

結果は25分・$0.37・リテイクゼロ。口パク3カットとも、構図も口元も文字も最後まで崩れませんでした。 作品ページ →

未定稿 キービジュアル c01未定稿 キービジュアル c02未定稿 キービジュアル c03未定稿 キービジュアル c04未定稿 キービジュアル c05未定稿 キービジュアル c06未定稿 キービジュアル c07未定稿 キービジュアル c08未定稿 キービジュアル c09未定稿 キービジュアル c10

10カット分のキービジュアル。1枚ごとに「文字が何でできているか」が違います

02折れない旗 — 4回作り直した1カット

瓦礫から立ち上がる5人組の応援歌。コバルトブルーの空に、朱色の破れた旗。

この曲でいちばん粘ったのが、路面に「前へ進め」と書かれたカットです。 4回作り直しました。

  1. 足踏みするばかりで、前に進まない
  2. 「カメラが前進する」と指示 → 逆に被写体がカメラに近づいてきた(動く歩道を逆走しているような画)
  3. 「世界の側が動く」と書き換え → 前進感は出たが、路面の文字が流れ去った後にモデルが別の文字を捏造した
  4. 「前進しすぎ。文字の位置まで一歩踏み出すだけでいい」→ 解決
失敗テイクと最終テイクの比較。左は路面の文字が崩れて別の字が現れている
左が失敗(3回目)、右が最終。 左では「前へ進め」の文字が流れ去ったあとの空いた面に、モデルが漢字らしき別の字を勝手に描き足しています。 右は一歩だけ踏み出す構成にして、文字が画面内に留まるようにしたもの
失敗テイク(再生ボタンで再生・音声なし)
最終テイク(再生ボタンで再生・音声なし)

もうひとつの発見 — 疑う場所を間違えていた

別のカットで、焼き込んだ文字が最初から誤字になっていました。動画生成を疑って何度も作り直しましたが、 原因はキービジュアルの時点ですでに文字が間違っていたこと。 目視チェックを「全体の雰囲気」で済ませ、1文字ずつ照合していなかったのが敗因です。 以後、焼き込み文字は逐字で突き合わせる運用にしました。

文字が雲に溶けたテイクと、正しく保持されたテイクの比較
左は文字が雲の形に溶けて判読できなくなったテイク。右は「まだ 終わらない」が最後まで保持されたもの

折れない旗 の作品ページ →

03走り出したいのに — サイトのデータから全自動で

既存曲へ後からHooksを付けた1本。symbol.monsterの楽曲データ (歌詞・音源・カバー動画)から素材を全自動で取得した初のケースです。

画風はカバー動画を引き継がず、フラットアニメで作り直しました。 「止まったままの心が少しだけ動いた」を、影が動き出すという映像に置き換えています。

ここでも文字で苦戦しました。疾走カットの路面に置いた「走り出したいのに」が、 カメラ移動のたびに崩れる。2回失敗したあと、 文字を路面から夕空へ移し、路面は無地のアスファルトにすることで解決しました。 崩れる対象を、構図から消してしまうのがいちばん早い。

作品ページ →

04丸一日を溶かした思い込み

以前作った2本が、SunoにHooksとして登録できませんでした。押しても暗転してスピナーが回り続けるだけ。 原因を突き止めるのに、この日いちばん時間を使いました。

立てて、外した仮説はこうです。

  1. 動画の技術仕様が悪い(解像度・尺・ファイルサイズ・コーデック) → 全部揃えても失敗
  2. Hooks機能が始まる前の曲だから → サイトの319曲を集計すると 「境界より前の35曲は1本もHooksを持たない」という完璧な相関が出た。 ところが、この境界日を自分の制作履歴と突き合わせて崩壊。 単に、自分がHooksを作り始めた日でした。 実際、245件中242件は公開30日以内に作られており、本人の行動で説明できる相関でした
  3. 一定以上古いと登録できない → 公開10日の曲でも失敗し、反証

真因は、ライブラリの検索から曲を開くとHooks登録に失敗するというものでした。 同じ曲でも、フィルタで絞り込むか、URLを直接開けば成功する。 検索結果の項目が完全な楽曲データを持っていない、Suno側の不具合です。

教訓は単純で、相関から仕様を推測してはいけない。 対象を変えた対照実験(同じファイルを別の曲へ/同じ曲を別経路で)だけが、真実を出しました。

05この日に入れたパイプラインの改善

改善中身
9:16ネイティブ生成 画像生成は1024×1536固定ではなく、プロンプトで1080×1920を指定すれば真の9:16で出る。クロップ損失がゼロに
アスペクト自動クロップ それでも比率が合わない参照画像は、ジョブ構築時に自動でセンタークロップ。非等比の引き伸ばしを構造的に排除
グレイン無効 フラットな絵にフィルムグレインは逆効果と判明。既定をオフに(ファイルサイズも1/4以下)
カバーの先頭1フレーム Sunoは埋め込みカバーを読まないので、タイトル絵を実際の先頭1フレーム(1/24秒)として挿し込む
ランタイム自動上限 GPUの最大実行時間をジョブ規模から自動計算(一律6時間 → 11カットなら約1.3時間)。事故ったときの損失が小さくなる

06H3の癖として溜まったもの

  • 焼き込んだ文字は、動く面に置かない。 空や壁のような静止した面なら保つが、スクロールする路面に置くと崩れ、 さらに空いた面へ別の文字を捏造しはじめる
  • 参照にキャラクターシートを渡すと、そちらの構図へ引きずられる。 そのカット自身のキービジュアルだけを渡すのが安全
  • 「カメラが動く」と書くと、被写体が寄ってくることがある。 「世界の側が動く」と書いたほうが意図どおりになる
  • 8秒(192フレーム)を超える生成は、現行の環境では実用外

おわりに

パイプラインが固まると、1日の作業は「絵コンテを決める」「文字をどこに置くか決める」に集約されていきます。 この日いちばん時間を食ったのは生成そのものではなく、 思い込みの検証1文字ずつの照合でした。 たぶんこれは、しばらく変わらない気がします。

制作環境: Suno(楽曲) / GPT-Image2・Codex CLI(キービジュアル) / MiniMax H3 + ComfyUI(動画生成) / RunPod(GPU) / 自作パイプライン(Python)